BD


ベルギー、フランスなどの仏語圏のバンド・デシネ、BD(べ・デ)と呼ばれる漫画文化。小さな街にも専門の書店があっていい年の大人が真剣に選んでいたりする。日本で知られているエルジェの『タンタンの冒険旅行』シリーズを筆頭にした子供向けのものもあるが、画家の技倆が押し出された非常にアーティスティック(セリフが皆無など当たり前)なものや、ストーリー自体が大人向けのものもかなり多い。映画化されたサトラピの『ペルセポリス』やもうすぐ公開される『ラルゴ・ウィンチ』(画像)もBD(前者は和訳がある:『ペルセポリスI イランの少女マルジ』)である。
先日眺めていたら『失われた時を求めて』が箱入りの分冊で刊行されていた。あるいはいろんなBD作家がエドガー・アラン・ポーの小説を描いたアンソロジーなどもあった。画材のタッチを意識した作風の作家も多くて見ていると心地よい。版型が大きく基本的にフルカラーというフォーマットがそうした文化の土壌になっているように思う。
都会の大きな書店では日本の漫画の翻訳がかなりのスペースを占めているが、BDを見ていると両者はほとんど関係のないものだということがよく分かる。BD文化で育った人間からすれば日本のマンガはやはり相当に不可思議なものに見える。大判で綺麗に装丁されたBDと小さなフォーマットで安価に量産される日本のマンガの関係は、やたらと美麗な日本のハードカバー単行本と、英米のやや低品質なペーパーバックの関係に似ているかもしれない。価格の関係もほぼ同じで、子供が小遣いで気安く買えるほど安くはなく、映画一本よりも高い。
日本ではメビウスエンキ・ビラルなどは比較的知られているようにも思うが、もっといろいろ翻訳されてもいい。恩義のありそうな大友克弘とか宮崎駿が音頭をとれば多少は売れ…ないか。