内部告発サイト

最近いわゆる「ブラック企業」を告発?するソーシャルサイトが作成され、直後に休止されたようだ。「はてブ」などの反応を見ると、趣旨としては賛同できるが企業からの反応には対抗できないだろうとの観測が多いように見うけられた。ベータ版でとりあえずサービス開始→反応を見て展開を決定といういわゆるひとつの Google メソッドにならったようだが、リスクの想定が容易なだけに少し稚拙なやり方だと感じる。

前例として Wikileaks.org は参考になるだろうか。ほとんど国家レベルの「敵」を作っている Wikileaks と「ブラック企業告発サイト」とは規模・人材・精度・影響力などあらゆる意味で比較にならないだろうが、密告サイトという非公開の情報を暴露するメディアのあり方としては参考になる。私見ではこの種のサイトに最も求められるのは信用であり、そのためには確実な情報提供者の保護と公開情報の吟味が不可欠である。原則的には法執行機関の要請に対しても情報提供者が秘匿されるようなシステム構成にするべきだろうし、公開情報が虚偽であった場合の信用失墜は極力避けなければならない。

Wikileaks では技術的に情報の提供元を「追跡不可能」としている。具体的には PGP や Tor を独自に改良して運用、匿名通信が可能な場所からの通信や郵便との併用を推奨、サーバはログを残さない、ファイルは暗号化され改竄も検出する、サーバは報道機関への保護が手厚いスウェーデンで運営する、など*1。これによりソーシャルにハックされて Wikileaks 組織の内部にスパイが潜入できたとしても、情報源の特定は不可能と述べている。これまでの唯一の失敗としては、提供された画像ファイルの解析によって撮影場所と撮影機材が推測され、これをもとにソーシャルな手法で情報提供者が割れたということがあるようだ。

人材的な意味での Wikileaks の強みは上記のようなサイトを運用できる技術力に加えて、情報の分析能力が非常に高い点である。Wiki と付いているが 実際に Wiki 的に運用されているのは公表された情報の分析記事の部分で、何を公表するかという決定は専門知識を持つスタッフが行なっている*2。世界中の政治・経済・企業などのネタを扱っているが、いまのところガセネタに踊らされたことは皆無と述べている。分析記事も高度なものが多い*3

Wikileaks では世界的な視点から見て政治的・倫理的に重大な案件でない限り公表対象にしないので*4、日本の企業の労働条件などのもっとローカルな情報を扱う受け皿はあってもよいとは思う。重要なのは第一に告発者の保護、第二に企業サイドの干渉からの運営者の独立だが、とりあえず人材を投入せずに運営するならば公表情報を集約・分析するサイトにするのが無難かも知れない。それでも潜在的な法的リスクに防御的な Wikipedia やソースのない情報が飛び交う 2ch とは差別化できるような気がする。投稿者をどうやって保護するかが明確でなく、サイトの信用もない間は完全にソーシャルなサイトとして運営してもおいしいネタは集まらないだろう。

*1:余談だが日本の誇る Winny の技術もこうした面には貢献できるかも知れない。

*2:ひとつだけ気になるのは、この Wikileaks 自体が何らかの情報機関の窓口になっているかも知れないという可能性。サイトでは自ら CIA 等とは関わりがない、と述べているが。

*3:その書き方を指南している Writer's kit は一般的な記事の書き方としても参考になる。

*4:日本のネタで掲載されているのは「もんじゅ」事故の際の証拠映像くらいだったが、最近、日本も参加している ACTA の合意事項のドラフト(非公表)も掲載された(ACTA = 模倣品・海賊版拡散防止条約)。