人肉食と復活

キリスト教の教義では人間は死後に復活することになっているが、もし人間が人間に食べられた場合、同化された部分は誰の身体として復活するのか?

という、2世紀には既に存在したという問題設定についてのトマス・アクィナス(13世紀)の設問。まず人間の復活という教義以外に衆目が一致していた点として、消化された食物は人間と同化し、世の終末には食べた者として復活する。そのため、A が B を食べたとすると、食べられた部分も含めて B はやはり B として復活し、このとき A の一部になっていた B の一部(あるいは全部)は A が食べた人間以外のもので補われる。

アクィナスは以下のような問いを立てる。もし、人間の胎児のみを食べている人間がいて、その子供もまた胎児のみを食べていたとしたらどうなるか?

同化された人肉が元の人間として復活するならば、この子供は復活せず、その肉体はすべて他の人間として復活することになる。つまり、子供の身体が復活するのは父親が食べてきた胎児(子供の生命の核は父親の精子を通じて伝えられた、父親が食べてきた胎児である)としてか、あるいは子供が自分で食べてきた胎児として復活するということになり、子供自身の復活に際して身体を補う要素が残らない。

参考:

  • Caroline Walker Bynum, "Material Continuity, Personal Survival, and the Resurrection of the Body: A Scholastic Discussion in Its Medieval and Modern Contexts" in History of Religions, Vol. 30, No. 1, The Body (Aug., 1990), The University of Chicago Press, pp. 51-85.